「暫定復活」ジャズ&クラシック・レコメンド -31ページ目

BEST OF BLUE BRAZIL/BLUE NOTE IN A LATIN GROOVE

 3枚あるオムニ盤からのベスト盤である。この1枚で全貌が分かるが、これにハマルと必ず全てを聴きたくなる。ラテン系のフュージョン、ビッグバンド、ヴォーカルもの、ボサノバ、サイケ・サウンド(こんなジャンルあるのかな~)などがテンコ盛りだが、もうジャンルなんかどうでも良くなる圧倒的な爽快感である。

 特にお気に入りはエルザ・ソアレスの「マシュ・ケ・ナダ」。この曲は様々なヴァージョンが出回っているが、これは全くソフィスティケートされておらず、ネイティブの迫力。異様にクリエイティブを意識したTRACK1など聴き所が多い。全く異種のサウンドがブラジルという大きな枠でくくられて共存していることに、ある意味感動する一枚である。これからのドライブにお勧め。ジャケットも味があって良い。

 

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

 

★★★☆


MICHEL SARDABY TRIO/NIGHT CAP/SOUND HILLS

 これは彼の最高傑作だ。2曲目、NIGHT CAP 、パーシー・ヒースの渋いベースソロが1分以上に渡り続く。ジャズの神髄を知っている人のソロだ。低音がお腹に響き、満腹になったところでコニー・ケイのドラムスが滑り込み、サルダビーの粘着質のブルース・フレーズが部屋に満ちる時、ジャズ喫茶の空気が充満する。このアルバムを知ったのは独身時代の他県の寂れたジャズ喫茶。帰り道、レコード屋に直行したのを憶えている。

 続く I’M FREE AGAINは日本人好みのマイナー調。悲しげな彼のアドリブの延長線上の曲だ。曲名をそのまま歌詞に乗せられそうなくらい歌っている。良く歌う彼のピアノのおかげで共演者二人はMJQ以上の出来である。と言うかリーダーの引き締めが強くなければ彼らはこれくらい平気で出来るのである。

 サルダビーの場合、作曲が良いので、ラストのスタンダードは蛇足の感がある。ながら聴き、集中聴き、どちらもOKである。録音も中低音が充実しており、高級ステレオじゃなくても良く鳴る。これは「ジャズの音」である。

★★★★

STOLEN MOMENTS/KENNY BURRELL/CONCORD JAZZ

 コンコード・レーベルは日本人のとってアキレス腱である。まあ契約会社がいろいろ変わったり、一時期宙に浮いたりするから仕方ないかもしれないが、それこそ、日本で不人気な証拠である。何がいけないのかと言うと

 

①バップとスイングの中間的な作品が多い。日本人は明らかにハードバップの2~3管編成、あるいはピアノトリオが好きである。

 

②マイナー調の名曲名演が皆無である。これは致命的だ。ソニー・クラークが日本でだけ評価されていることからも逆説的に分かる。CD屋には大量にクラークの輸入盤が出回っているが、ニュー・ヨークのHMVでは1枚しかなかった。(しかもバディ・デ・フランコのサイドメン)。グラウンド・ゼロのそばの巨大なCDショップにも「クール・ストラッティン」1枚しかなく、黒人の店員に聞いてみると、発音が悪かったのか「ケニー・クラーク」のアルバムをもういいと言うくらい紹介してくれた。ソニクラの輸入盤はほとんど日本に流出しているのかも。

 

③音。ギラギラした、不自然とも言える陽性の音には抵抗がある。

 

とは言っても上記のアルバムを購入したのはバレルが好きだったからと言うのと、「TIN TIN DEO」と「MOON AND SAND」の2IN1CDでかなりお得感が強かったからだ。

 

前置きが長くなったので、簡単に紹介するがまず「TIN TIN DEO」(この曲日本ではあらぬカタカナ表記がされていたりする)。表題曲はじんわりとしたブルージーなバレルのギターにのって、カール・バーネットが熱くなる。スタンダードも良いがオリジナル、「THE COMMON GROUND」はBN盤「ミッドナイト・ブルー」と肩を並べるくらい良い。曲調も類似している。

 

2枚目「MOON AND SAND」は、かけた瞬間、不良品かと思った。アール・クルーだ。いやアール・クルーのようなガット・ギターなのだ。80年発表ということもあり、新機軸を打ち出したのか。おどろおどろした節回しまでアール・クルーそっくりなのだ。だがよく聴くと旋律はいつものバレル。逆にアール・クルーが思いの他、ジャズっぽいことを知らされたような気がした。ストレイホーンの「U.M.M.G」、「ブルー・ボッサ」も心地よい。

 

2枚総合して言えるのは、これはコンコードらしくない、と言うことだろうか。音も中音が引き締まり、いつものコンコードのようにちゃらちゃらしていない。もしかするとこれは最近の「リマスタリング」というマジックの成せる業かもしれない。

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★

ALEXI TUOMARILA QUARTET/02/FINLANDIA JAZZ

 先日,久しぶりにS市に行くと,驚くことに外資系のCDショップ「V」が閉店セールをやっていた。去年は,学生時代からお世話になっていた「P」が閉店したばかりなのに。これでS市内に,在庫量が豊富なショップは外資系の「T」と「H」だけになってしまった。寂しいことだ。と言いつつその原因の一端はわたしにもあるのだ。と言うかわたしを含む数千,数百万の人に。「V」,「P」と「T」,「H」を隔てていたものは何だろうか。恐らくネット販売をしていなかったことだろう。恐らく「T」や「H」も店頭売り上げは落ち込んでいるのだろう。だがネット販売で,挽回しているに違いない。わたしも親の世話で田舎に引っ込んでしまったので,専らネットに頼りきりだが,やはり,たまにはCDショップを巡らないと,入手できないものもあるのだ。閉店セールで購入した ALEXI TUOMARILA QUARTET 02 も、さながらそういった一枚だ。帰りの車の中で,少々後ろめたい気持ちで拝聴したこのCDは、なかなか聴き応えのあるものだった。

 

 このフィンランドの女流ピアニストは日本では無名と言って良いだろう。だが、その才能は驚くべきものがある。拙い英語力でライナー・ノートを何とか解読すると、ブラッド・メルドーから、かなりの賞賛の言葉をいただいているようである。まず、失礼ながらクリアーな録音をほめたい。特にドラムの音は素晴らしい。定位がはっきりしていて、ドラムセットが目に浮かぶようである。やはり、スティープル・チェイスなど北欧のレーベルは総じて音が良いようである。

 

 トゥオマリラ(と言うのだろうか)のピアノは、エヴァンス、チック・コリア、キース・ジャレットの影響が見え隠れし、さして目新しいものはない。また特別にテクニシャンと言うわけでもない。彼女を評価すべきは、作編曲と音を選ぶセンスだ。3曲目 NOAIDI は、はっとさせさられる彼女のイントロから始まる7拍子(?)の曲である。いや3+4拍子と数えた方がスイングしやすい。また、マイルスの SOLARが7曲目に収録されているが、テーマの提示がなくいきなりアドリブで始まり、どんどんヒートアップしていく。ドラマーのソロがかなり長く続くが、これ見よがしのテク見せびらかしではないところに好感が持てる。

 

全体的に北欧の風土を感じさせる、時に可憐な、時に激情的な彼女のピアノの次作に期待しよう。陽光の差し込む、カフェか何かで何となくかかっていたりする良さそうなポップスセンスも持ち合わせた好作である。

 

追記:彼女は本国でかなり精力的にライブを行なっているようである。(オフィシャル・ホーム・ページで見ることができる)。

★★★☆

 

 

JOSHUA REDMAN/WISH/WARNER 9362-45365-2

 これは友人宅で知った。1曲目がかかった瞬間、名盤であると確信する。名盤は1曲目の最初の数小節でもう名盤なのだ。「サキコロ」「モーニン」「クール・ストラッティン」などあげればきりがない。果たしてバド・パウエルのアメイジングVOL5の1曲目が「クレオパトラの夢」でなかったら、彼の(日本での)代表作、ジャズ喫茶ヘヴィー・ローテーション盤になっただろうか。

 さてこのアルバム1曲目は「ターン・アラウンド」。ハンク・モブレーのそれではない。耳なじみの良いメロディーにメセニーのギターが絡み、ビリー・ヒギンズのくねくねとしたドラムが即反応、チャーリー・ヘイデンが滑り込む。「ジャズ」と聞いて、一般人が思い浮かべる最大公約数的雰囲気をこの曲、この演奏は持っている。途中で変拍子になるのも面白い。作曲はオーネット・コールマン。彼の演奏にはイマイチ共感できないが、「ロンリー・ウーマン」やこの曲など、素晴らしいメロディー・メーカーである。2曲目「ソウル・ダンス」がまた良い。ワルツ・タイムの曲で、メセニーのうらぶれたコードワークが心地よい。

 ジョシュアの音色はハードボイルドで男気を感じさせる。ちょっとおどけた「ムース・ザ・ムーチ」に続き耳から心が癒される「ティアーズ・イン・ヘヴン」がまた良い。寒い外から帰って、暖炉(そんな気の利いたものないが)の前で聴きたくなるような暖かい曲だ。

 何度か聴くとジョシュアの限界を感じさせる部分もある。1993年、セカンド・アルバムにして、上記の巨人たち、ジャズの生き字引のような面々と対等に渡り合えと言うのが無理であろう。「ターン・アラウンド」では、なかなかアドリブに移れず、右往左往する(ように聴こえる)彼が見える。これはソニー・ロリンズの例のモールス信号に聴こえなくもない。

 ライヴ2曲でアルバムが終わる。聴衆の好反応も大納得。わたしだったら、大騒ぎして、つまみ出されていたかもしれない。今度、ジャズ喫茶に行ったらリクエストしてみよう。繰り返し聴いて飽きない「名盤」と断言しよう。

★★★★

JOSHUA REDMAN