「暫定復活」ジャズ&クラシック・レコメンド -28ページ目

バルネ・ウィラン/フレンチ・バラッズ/IDA RECORDS

 ジャズ喫茶で知ったCDだ。何ともしゃれたフレンチ・バラッズ=シャンソンの解釈だ。手を加えすぎないアレンジと彼のダンディなテナー・ソロで、原曲の輝きが増す。さすがに「マイ・ウェイ」は軽妙と軽薄をさまようが、「詩人の恋」、「パリの空の下」などをカジュアルなフレンチのように料理してしまうバルネに拍手である。特にお薦めは円熟の節回しで聴かせる「パリの空の下」。ドラムとちょっとブーミーなベースのイントロで、もう期待感十分である。大好きな「想い出の夏」はドラム抜きのソプラノでしんみりと聴かせてくれる。87年録音。きちんとした(?)4ビート作品が消えつつあった当時、フランス、そして北欧の諸国の良心的なレーベルは、初心者にも安心して聴くことのできる作品を提供し続けてくれた。わたしはカチカチのジャズマニアから少々ズレた位置にあるので、堂々とこのアルバムに5つ星を付ける。アンプの電源を入れたものの「何から聴こうか?」と言うとき、取りあえずの一枚として最高。

 風土的な違いからか、音が薄い。

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★★

TINA BROOKS/BACK TO THE TRACKS/BLUE NOTE

 日本人が好む哀愁曲ゾーンにズバッと直球を投げ込むのがティナ・ブルックスである。ジャンキーで早死にしたため作品は少ない。キャバレーカードを交付してもらえないため、ライブがほとんどできず、そのため、アメリカで人気が出るわけがない。これは今も同じで、ロックバンドでも、年に何百本も行なうライブ人気が先行し、やっとメジャー・デビューできるのだ。共演のブルーミッチェル、ジャッキー・マクリーンは色々な意味で「遊び友達」。2曲目「ストリート・シンガー」のテーマでの哀愁、それぞれのソロの哀愁に注目。この作品が、他のアルバムの裏の広告に載っていながら発売されなかったため、「幻の名盤」扱いされたが、ブルーノートでの彼の採算性と言う点での評価を表しているようで悲しい。他に3枚のリーダーセッションがブルーノートにあるが発売されたのは一枚「トゥルー・ブルー」のみ。レコードから音楽の世界に入る日本人は独特の感性と触覚を持って、アメリカで埋もれかけた才人を発掘する。ティナ・ブルックスしかり、ソニー・クラークしかりである。私、実は不眠症で、睡眠導入剤を服用しないと眠れないのだが、程よくクスリが利いているときに、なんとなくこのあたりのミュージシャンのCDをベットで聴いていると、夢うつつに彼らの満たされない気持ちが分かるような気がするのだ。悪いことをしているのでないが、少しの後ろめたさと共に。

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★☆


熱帯JAZZ楽団/ライブ・イン・ヨコハマ/VICJ-60168

そろそろ、夏のジャズフェスの「ご案内」が封書で届くようになってきた。我が北海道では他県には見られないリッチな現象がある。熱帯JAZZ楽団を軸に回っているのである。このバンド自体、わたし(たち)80年代に青春を刻んだジャズ少年にはドリームバンドである。リーダーのカルロス菅野はもちろん、「カシオペア」の神保影、「松岡直也バンド」の高橋ゲタ夫など、男が言うのも変だが黄色い声援の対象になっていた人々が一同に会しているのだ。熱帯JAZZのライヴをほぼ毎年見ることができるなんて、これは凄いことだ。他県では東京と大阪くらいではないか。

このバンドが来るか来ないかで、もうジャズフェスの成否が決まっているように思う。札幌ジャズフォレスト(今年は8月6日)で、一昨年、屋外ホールの改装工事と、このジャズフェスの5周年が重なり、ビックネームを呼ぼうということになった。白羽の矢が立ったのがハービー・ハンコックであった。北海道厚生年金会館はガラガラであった。

そして、昨年、改装後の新ホールでは、一昨年のフラストレーションもあってか、立錐の余地もないくらいの人出であった。恐らく6000人以上は来ていたのではないか。マンネリなどと言う言葉は無縁である。

今年、このバンドは10周年を迎える。それで、彼らはジャズフェスとは別に、同じ会場で記念ライブを決行する。7月3日、札幌芸術の森[屋外ステージ]。近郊のジャズフェスもうまいことを考えている。まず札幌ジャズフォレストはカルロス菅野率いるスペシャルバンドを仕立てた。ジャズフェスとしては歴史の深い倶知安(くっちゃん)ジャズフェスティバルでは高橋ゲタ夫を中心とするユニット、「ピンクボンゴ」を招待した。ちなみに倶知安は数年前、ノラ&オルケスタを招聘している。このように熱帯ジャズ周辺の人々を呼んで、人気を継続しようとしているわけだ。

長くなったが、紹介のアルバムは彼らのファースト。昔は国内発売されず、幻の一枚であった。驚異的なノリと大胆なアレンジ、超ど級のソロをまずこの一枚で堪能していただきたい。「マンボ・イン」、ウェイン・ショーターの「パラディウム」、マイルスの「チューン・アップ」、「マンボNO.5」など、名曲目白押し。

下記CDは去年、サインをもらった裏ジャケ(ゲタ夫氏と菅野氏)。ミュージシャンが客席に降りて来て一緒に楽しめるのも、ジャズフェスの良いところ。

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★


JOS VAN BEAST TRIO/BECAUSE OF YOU/澤野工房/AS006

これはアドリブ以前に、メロディーと美音を楽しむアルバムだ。オランダのピアニスト、ヨス・ヴァン・ビーストを発掘してくるとはさすが澤野工房だ。無論、アドリブも無難にこなしている。メロディーを変奏させたような分かりやすいアドリブだ。白人ピアニストに宿命のエヴァンスの影響が手に取るように分かるが、単なるコピーには終わっていない。とにかく、メロディーを楽しんでいただきたいのだ。聴くとも聴かぬともなく聴いていると(よーするにながら聴き)、彼の腕の確かさにはっとさせられることがある。1「これからの人生」、3「いそしぎ」、8「ブルー・ボッサ」、10「ミッシェル」など、本当に名曲揃いだ。こんなに揃っていると、例の日本制作ケニー・ドリュー系ジャズカラオケ盤かと思いきや、そこはさすが澤野工房、マニアから初心者まで十分に聴き応えのある作品に仕上がっている。やはり志の高さとセンスの良いチョイスがそうさせているのだろう。疲れた心を癒してくれるまさにくつろぎのピアノ・トリオだ。

どの曲も甲乙付けがたいがわたしは「ミッシェル」を推薦する。数多くある、ビートルズのカバーの中でも出色のできではないか。後半でごく自然に、ボッサの名曲「ウェーブ」に移行するあたり、さすが。

どのあたりから手を入れているか分からないが、澤野工房の音がまた素晴らしい。ズシンと来る低音、中音の充実、眼前で鳴るシンバルなど、正に「ジャズの音」である。ブルー・ノートにヴァン・ゲルダー・サウンドがあるように、確実に「澤野工房の音」がある。コンポが一ランク上がったような美音を発し始めるからこれは凄い。またこのレーベルはジャケットを含めた意匠も素晴らしい。ジャケットがきれいで、好きな曲が入っているから、というジャズ的には後ろ向きな購入の仕方をしても、まず外れることはない。今後も注目していきたいレーベルである。


個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★



 

 

JUNIOR MANCE/JUNIOR/VERVE

右にベースのレイ・ブラウン、左にドラムのレックス・ハンフリーズ、中央にピアノのジュニア・マンスが座している。位置関係以上に三者三様、バラバラで、しかも、アルバム一枚、きっちり成立している、ある意味不思議な名盤である。超一流のベーシストに伴奏をつけてもらうことにジュニアは恐縮していたのではないか。いつものジュニア・マンスに付けられる形容、つまり「ファンキー」「ソウルフル」「ゴスペル・フィーリング」と言った言葉は当てはまらない。それらは60年代の諸作、スイート・ベイジルの初ライブ作などで聴くことができる。

このアルバムのジュニアはテクニックを少し差し引いたオスカー・ピーターソンと言ったところか。恐らくレイ・ブラウンのご機嫌を損ねないように合わせたのだろう。この納得できない部分を越えて楽しむには「レイ・ブラウン・トリオ・ウィズ・ジュニア・マンス」として聴くと良い。きっと、レコーディングの時の格付けもそのようになっていたのではないか。そう言った作品は、幾らでもある。例えば、ブルー・ノートのキャノンボール・アダレイの「サムシン・エルス」やハンク・モブレーとアート・ブレイキーの共演作などだ。そう聴くと「レイ・ブラウンの控えめなリーダーシップによる名演集」と聴こえてくる。まあ何と言ってもジュニアの初リーダー・アルバムだからね。

呆れ顔でドラムを叩くレックス・ハンフリーズが目に浮かぶ。この人は少し単調だが、ブラッシュの名手のようだ。「ウィスパー・ノット」、「ラヴ・フォー・セール」など名曲揃いだが、「バークス・ワークス」の名演がとどめをさす。唯一、ジュニアらしい、ソウルフルなタッチを味わうことができる。

★★★☆