「暫定復活」ジャズ&クラシック・レコメンド -29ページ目

THE MAGNIFICET THAD JONES/BLUE NOTE 1527

 通称、「鳩のジョーンズ」と言われる名盤である。先日のニュースで、パーシー・ヒースの死を知り、印象に残っている彼の演奏をと思い、取り出したのがこのアルバムである。ナンバー1はミシェル・サルダビーのアルバムで、すでに紹介している。MJQでのパーシー・ヒースのベース・プレイはあまり評価したくない。ミルト・ジャクソンもそうだが、どうもジョン・ルイスの手足になっている以上のことはしていないように思えるからだ。

 さて、このアルバムの名盤たるを決定付けるのは1曲目「パリの四月」であろう。ヒースのベースと、バリー・ハリスの重い響きがサド・ジョーンズの飄々としたペットと絡み、良い味を出している。フェイド・アウトするエンディングはぞくぞくするほどで、何度でも聴き返したくなること間違いなしだ。

 「パリの四月」以上にわたしが気に入っているのは、アルバムラストを飾る「シーディア」だ。バリー・ハリスのソロに続くヒースのソロは溌剌としていながらも、出しゃばらず、実に趣味の良いものだ。MJQの萎縮した、あるいはふやけた「伴奏」とは訳が違う。マックス・ローチのソロも秀逸。これぞハードバップという名演であろう。

 ハードバップの生き証人たちが少なくなっていくのは残念なことだ。

 個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★☆


特集:バド・パウエル(3)最終回 THE AMAZING BUD POWELLVOL.1

 ここまで来たらもうバド・パウエル登頂8合目である。このアルバムは何と言っても「ウン・ポコ・ローコ」3連発である。録音は1951年。バドにしては異色の演奏である。曲名は「ちょっと変(クレイジー)」と言う意味だそうだ。いつものわがままなバドは影を潜め、執拗なまでに3度もテイクを重ねている。ちょっと変なのである。ひときわ異色なのが、マックス・ローチのフル・ラテン・リズム・セクションのようなドラミングである。とにかくカウベルがうるさいくらいだ。特に興味深いのがテイク2である。順調にバドのソロに突入するが、小気味よくラテンのリズム(トゥンバオ)を刻んでいた左手が、白熱する右手に注意が集中したため(と思われる)、おろそかになり始める。そしてとうとう、バドはソロを途中で放棄。もしドラマーがアート・テイラーやアート・ブレイキーだったら「OK!OK!」とか言って、バドをなだめ、アウトテイクになっただろう。奔放なローチはそうしなかった。喜々としてバドの隙間を埋めるようにドラムソロを展開したのだ。驚くことにバドはそれを容認し、完奏、曲は閉じられる。

バドをここまで従順にさせた要因はどこにあったのだろうか。当時完璧で向かうところ敵なしだったバドにとってこれは超えなければならない「山」だったのだろう。ギターを追い出し、ドラムスを加入させ、ピアノトリオの形を定着させた彼はここで「リズム」、特に「ラテン」という課題に挑んだのだ。自分が創始者と言われるスタイルを踏襲しつつ、当時NYで勢力を拡大しつつあった、ラテン・アメリカ系移民にジャズの幅広さ、凄みを見せつけたかったのかも知れない。この急速調の曲でバドが考えていたことは「自分はいけていないのでは」「乗っていないのでは」という不安だったに違いない。精神破断者で傲慢なバドでも、ここはひたすら、サイドメンの暴走も我慢し、マスター・テイクを残さなければならなかった。この「山」を越えた後、彼はもう「リズム」に関心を示さなくなった。

僕らがこの「山」を越えたら、もう、VERVEとかROOSTの「聖典」が残されているのみである。後は最晩年の「ゴールデン・サークル」などで裾野を散策するか。

バン・ゲルダーのリマスタリングによってデジタル臭は取れ、分厚い音になった。

 個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

 ★★★★★

 

特集:バド・パウエル(2)THE AMAZING BUD POWELLVOL.3&VOL.5

 

 ジャズは一山超えなければ分からない音楽と言われている。その中で、一山も二山も越えなければならないのがバドかも知れない。先回の「イン・パリ」に続き、今回はパリに渡る前(VOL.5は寸前)の2枚を紹介する。

 この2枚のアルバムの魅力は2曲に集約されている。まずVOL.3の「ブルー・パール」。ジャズの曲やアルバムには「ブルー」と銘打ったものが多い。そのほとんどが日本人の心の琴線にふれるもので、この曲もそうである。題名どおりのブルーで覚えやすい曲調、そして起承転結のはっきりした曲構成。ピアノトリオの王道と言う感じである。この曲は別テイクがあり、これを聴くと面白いことを発見する。対照的な演奏なのである。マスターテイクの「躁」に対して別テイクの「鬱」。そんなに時間を置いていないのに、なぜこんなに違うのだろう。プロデューサーのアルフレッド・ライオンに「もっときちんと弾いて!」などとダメだしを食らったのだろうか。奔放で、ミスタッチが目立つマスターテイクに対して、正確ながら冷たい表情を持つ別テイク。わたしは曲名からして、断然、別テイクを支持したい。

 もう一曲はVOL.5の「クレオパトラの夢」。何と幻想的な曲名なのか。メジャーなのにどこかマイナーな響きを湛える名曲だ。聞き流しているとただの良い曲なのだが、大音量で浸るように聴くと、バドの緊張感が伝わってくる。CMやTVのSEでも多数顔を出す。

 この2曲、そしてこの2枚に共通しているのは、特に日本のジャズファンやジャズ喫茶族に熱烈に支持されているのに対し、本国アメリカでは、ミュージシャンも含め、ほとんど無視されていることだ。以前、ケニー・ドリューが来日したときに、楽屋に尋ね、お付の通訳を通して、このあたりを伺ったことがある。するとやはり日本のアルファレーベルよりアルバムを制作するようになるまで、この2曲を知らなかったそうである。日本人の好みはどんなものかを知るためにレコード会社から照会のあったアルバムを聴き進めていくにつれて、パウエル後期の名曲群を知ったそうだ。後年、ドリューは「クレオパトラの夢」をレコーディングした。パウエルのミュージシャンズ・ミュージシャンの側面は、最初期にあるようだ。

 ともあれ、この2つの作品がパウエルにとって最高の条件下、最高の音で記録されたことには、故アルフレッド・ライオン氏、エンジニアのルディ・ヴァン・ゲルダー氏に敬意を表したい。ちなみにこの2枚、今日現在でAMAZONでは980円で購入できる。

 

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★

 

★★★★

特集:バド・パウエル(1) BUD POWELL IN PARIS/REPRISE

 バド・パウエルほど誤解された聴かれ方をしてきたミュージシャンはいないと思う。初心者向けのジャズ解説書で彼の傑作として挙げられるのがルースト盤や「ジャズ・ジャイアント」、BLUE NOTEのVOL1だったりする。わたしも正直、今時点ではこれらは歴史的名盤であり、ジャズ界に革命をもたらしたものだと認めるし、たまに聴いている。問題は、ジャズに憧れ、ジャズ的な雰囲気に浸ろうと思って、上記3枚を聴いたとしたら、どう反応するだろうか。ジャズ・ジャーナリズムの強さがあってみんな悪くは言わないが、困惑するのではないか。デジタル録音に親しんできた人にとって、デッドでモノラルの音は聴くのがつらくても当然である。長くなる予感がしつつ書いているが、これは登山をしたことがないものに、突然ヘリでエベレストの頂上に連れて行き、勝手に下山することをすることを薦めるようなものだ。言うまでもなく登山は、登るよりも下山のほうが難しいと言われている。上記3枚はバドのいや、ピアノ・トリオの、いやジャズ全体の頂点であると言って差し支えない。やはり山は裾野からゆっくりウォーミング・アップをしながら頂上を目指すに限る。そんな訳でわたしがバドの最初の1枚と薦めるのはBUD POWELL IN PARIS/REPRISEである。1964年だからバドの最晩年、40年代後半から50年代初頭のものとはかなり違う印象を受ける。一言で言うと、この「イン・パリ」は普通に凄いピアニスト、メロディストとしてのバドを聴くことができる。また、この寛ぎは、狂気の天才というこれまでの自分に貼られたレッテルに落とし前をつけ、普通の音楽を奏でる喜びを彼が噛み締めているのかも知れない。時々見せる悲しげなフレーズはそんな自分と決別する悲しみか。

 TRACK2:「懐かしのストックホルム」を聴く。マイナー・メロディーにバドの哀愁が絡み、枯淡の境地とでも言おうか名演である。同趣向の「ジョードゥ」も捨てがたい。バドにしては歌心のないバップ・オリジナルではなく、このような新しめの曲を演奏してくれていることもうれしい。破断気味の「サテン・ドール」。エリントンがプロデュースしたからサービスで弾いたのかな。面白いのは、BLUE NOTEのVOL1、2で採り上げている「リーツ・アンド・アイ」と「パリの大通り」を再演していることである。わたしはこちらの演奏の方が、曲やアドリブ構成が分かりやすいと思う。BN盤は「狂気の天才」の時期だから余人の許さない境地であることを認めるものの、初めて聴いたときは、そのあまりの凄さについていけないはずだ。

 いつでも安心して聴くことのできる名盤として、この「イン・パリ」をお奨めする。初発のCDは高音偏重で、シンバルが安っぽく鳴ったが95年以降の再発盤はその傾向がかなり改善され聴きやすくなった。ボーナストラックの「インディアナ」、「Bフラット・ブルース」も文字通りボーナスの輝き。メロディーを叩いてしまうドラマーがちょっとね…。

 

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★☆

JIM HALL/CONCIERTO/アランフェス協奏曲/KICJ8201

 

 いわゆる名盤の強みで技術革新がされるたびに再発され、カタログから消えたことがない。クリード・テイラー率いるCTIレーベルの代表的名盤であろう。アルバムラストを飾る表題曲「アランフェス協奏曲」はCTIお得意の1曲丸ごとアレンジメントが施された、イージーリスニング・ジャズの名演だろう。頑ななジャズ・ファンに敬遠される由縁でもある。この曲も良いが、わたしは3曲目、「アンサー・イズ・イエス」を好む。ホールの流麗なコード・ワークと共に、チェット・ベーカーの枯れたトランペットの味わいは格別だ。

 ガッツのある音だと思ったらヴァン・ゲルダー録音。ブルー・ノートだろうが70年代、フュージョン全盛期のジャズ作品だろうが、ポリシーに変化のないのには脱帽。前掲の「想い出の夏」とはこのあたりで志の差が出る。

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★