「暫定復活」ジャズ&クラシック・レコメンド -7ページ目

チャイコフスキー:交響曲第4番:ロジェストヴェンスキー~レニングラード・フィル

 以前、友人と話していて、一生に一度だけオーケストラの指揮ができるとしたら、何の曲を演奏するか、話題になったことがある。実はわたしは余命1年と診断されたら妻には必ず教えるように頼んでいる。死ぬ前に一度オーケストラの指揮をすることに、もう決めているからだ。インターネットで調べると、そういうことに応じてくれる音楽事務所があり、思ったほど高額ではない。言うまでもなく余命とかに関係なく手配してくれる普通の派遣事務所。(ちなみに妻は「あなたが死ぬことになると、そのお金が高くつき、葬式代がなくなるから絶対に教えない」と憎たらしいことを言っている)。


 話を戻すが、最初の話題は、友人から持ち出した。わたしはしばらく考えて「チャイコフスキーの5番」と答えた。友人は間髪入れず「え~僕は4番だね」と言った。友人が話した理由が、この曲の魅力を端的に現している。「だって、出だしから緊迫感のある金管で始まるでしょう。そして3楽章はほとんどピッチカートっていう珍しさだし、4楽章の盛り上がりはそれこそお祭り騒ぎでしょう。一生に一回ならこれしかないよ」。

 まあわたしの場合は余命1年から計画を始めて、半年前に指揮台に上がるはずだから、お祭り騒ぎはどうかと思うが、確かに4番はオーケストラの魅力を兼ね備えている。チャイコフキー自身も「鳴り物入り」とこの曲を評している。


 このお祭り騒ぎの頂点に位置するのが、今日ご紹介するCD。197199日のステレオ・ライヴ録音。ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮のレニングラード・フィルによるもの。いつもは渋面の音楽監督、ムラヴィンスキーの元で、知的な演奏を繰り広げていたレニングラード・フィル。彼らがロンドン公演で、ボスの目を盗み、ロジェストヴェンスキーの派手な芸風に乗り、燃えに燃えまくったドキュメント。映像が残っている音源からCD化だけに、一部、ピッチの歪みが聞かれるが、それは小さな問題。聴いてるうちに忘れる。1楽章冒頭から濃厚に拮抗するブラスに驚愕。お祭り騒ぎの4楽章はもの凄い。3つくらいの町内のお祭りのみこしが激突したような凄まじさ。


ロンドンのライブをCDやFMで聴いていると「ブラヴォー」のフライングや熱い拍手をよく聞くが、この演奏会は別格。4楽章の聴衆も最後の和音が鳴ったときから雄叫びのような喝采が始まる。会場中に口笛は飛びかい、大変な騒ぎとなる。


  

 レニングラード・フィルは当時絶頂期だろうか。信じられないテンポ設定で過激な要求をする指揮者を鼻であしらうかのように、凄いスピードで反応する。決して乱れない。空前絶後の爆演と言える。




ロジェヴェン

ミッシェル・サダビィ/ゴーイング・プレイシス/サンドヒルズ

MICHEL SARDABY (p)
RUFUS REID (b)
MARVIN "SMITTY" SMITH (d)


1.GOING PLACES
2.MUMBO-JUMBO
3.YEARNING
4.SUGAR LOAF
5.DRUM TANTRUM
6.HOW DEEP IS THE OCEAN?
7.STREET SMART
8.LOTUS BLOSSOM


 マイナーな存在ながら、日本で特に人気が高い、サダビィの1989年作品。まず彼はとにかく、オリジナルが大変良い。このアルバムだと、1曲目のアルバムタイトル曲の何気ない中にちょっとトロピカルのフレーバーを利かせたセンス、また4曲目「シュガー・ローフ」の和やかな雰囲気が何とも言えず、いい。覚えやすいけど飽きない、この絶妙のさじ加減がよろしい。

 やはり、第一の推薦曲は「シュガー・ローフ」。ラテン系のスミスのドラムにルーファス・リードが絶妙に反応する。サダビィのソロは原曲を発展させた感じで、分かりやすい。分かりやすさが低俗じゃないところが彼のセンス。

 トリオとしても申し分なく、80年代、ピアノの隠れ名盤と言っていい。この時期、ジャズ喫茶でたまにかかっている。

 スタンダードはイマイチ食いつきが足りない。

 繊細でリアルな高音(特にドラムのブラッシュ・ワークに注目)、現実ではありえない中音の張り出し。やはりヴァン・ゲルダーの仕業だ。

 ジャズはやはり「哀愁」だと強く感じる作品。


個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★

サダビー

チャーリー・ラウズ/ボサノヴァ・バッカナル/ブルーノート

 チャーリー・ラウズ唯一のBNリーダー作。62年11月録音。はモンクの元に20年も在籍したプレーヤーだから没個性かと思ったら大違い。このアルバムでの彼のプレイは本当に良く歌っている。バックはケニー・バレル以外は当時NYで活躍していたラテン・アーティスト。もうここまで来るとジャンルがどうこうとかそんなに重要ではない。出来上がる音楽が心地よければOKという感じである。録音時期を考えると、晩秋のハッケンサックのスタジオで枯葉の散る外を見ながら真夏の音楽を録音していたことになる。話はそれるが、デューク・ピアソンがサンタクロースの格好をしたBNのクリスマスアルバムは確か8月録音。汗だくでクリスマスキャロルを演奏したことになる。



 さてこのアルバム、まず1曲目「バック・トゥ・ザ・トロピックス」からノリノリである。バレルが陽性のコード・ワークで盛り上げ、ラウズも日ごろのうっぷんを晴らすかのように、良く歌う。彼のオリジナル「UN DIA」もメロディックでいい。


 

 モンクのせいで、従順なホーンセクションの一人と言う印象が強いが、リーダー作では結構やりたいことやってる。



 一枚通して聴いて、邪魔にならず、さりとて聞き流せずという、微妙な位置にあるアルバムである。恐らく南米のきれいな生地をあしらったジャケットも秀逸。



個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★☆



rouse

マイルス・ディビス/サムディ・マイ・プリンス・ウィル・カム/コロンビア

 リビングで妻が「世界の車窓から」を見ている。すると気になるメロディが。きっちりと刻まれたミディアムテンポの4ビート。そしてちょっと舌足らずのトランペットに従うサックスとピアノ。このくぐもったようなペットは間違いなくマイルス。転がるピアノはウィント・ケリーと決め付ける。と、それ以上が分からない。以前にも書いたがわたしはマイルスのオープンのプレイはあまり好きではなく、CDをかけても、すぐにその曲を飛ばしてしまう。この曲は持っていないようだ。わたしはコロンビア時代のマイルスのCDは、どうも「セールス」の香りがして、ほとんど所有していないのだ。だから逆にこの曲はコロンビアのCDではと思う。



 埒が明かないので、「世界の車窓から」のHPを見る。放映日がかなりずれこんでいるようだが(北海道だからかも知れない)マイルスの「Pfrancing」と言う曲であることが分かる。そして、アマゾンで検索して深く反省。名盤「サムディ・マイ・プリンス・ウィル・カム」に収録されている。しかも持ってるし。偏見はいけない。たしかにアルバムタイトル曲はお子ちゃまの曲であり「セールス」臭ぷんぷんだがこの「Pfrancing」はそんなことがない。非常にシンプルなフレーズを執拗に繰り返すのだが、良く分からないが、マイルスが吹く数音のフレーズを、モブレーとケリーがマネをしてプレイするということで曲が成立しているようだ。典型的なコール・アンド・レスポンスだが猥雑にならないところがさすがマイルス。最初のソロはケリー。マイルスのソロは味わいがあり好ましい。モブレーはマイペース。短めのポール・チェンバースのソロもスイングしてる。全体をしっかり支えていえるのはジミー・コブの堅実なドラム。エンディングもマイルスのセンスが光る。

 思わぬ名演を発見し、うれしくなる。それにしても「世界の車窓から」の選曲者、「いつか王子様が」ではなく「Pfrancing」を選ぶあたり、さすが。マイルスのオープンが好きになったら、また聞きなおしたくなるCDがたくさんあるのでうれしい。



 このアルバムではLP発売当時未発表だった「BLUES NO.2」も渋い演奏でお勧め。

 追記:「Pfrancing」はのちに「NO BLUES」と改名され、マイルス自身の、またホレス・パーランなどの名演が残されている。



音はかなりクリアーで左右が分離している。だが以前のものよりは中音が張り出すようになったかも。コロンビアの特徴か。

個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。

★★★★☆


prince

不定期更新:チェリビダッケ:ハイドンの交響曲

 ハイドンの交響曲は63歳くらいになるまで、良さが分からないと思っていた。その穏健でどこかほのぼのとした音楽をわたしが心から楽しむにはこれくらいの年齢を重ねなければと思っていたのである。落ち着きのないわたしはきっと60歳では、まだせかせかと落ち着きなく生きているに違いない。だが65歳だと、かなりもうろくしている予感がする。両親の老け具合を見てそう感じる。母などはコンサートでチャイコ5番を聴いていても3楽章までは居眠りしている有様。わたしが65歳になったらハイドンなどは開始1分で爆睡に違いない。(「驚愕」で起こされたりして)。


 穏健、ほのぼのというイメージを払拭した1枚を紹介。チェリビダッケの正規盤の103番「太鼓連打」と104番「ロンドン」である。(他に正規盤ではモーツァルトの40番とのカップリングで92番がある)。「太鼓連打」は遠雷のようなティンパニーで始まる。そしてマーラーまでは行かないがブラームスのような深遠なハーモニーが奏される。全体的にベートーヴェン寄りの、重心が低い演奏だ。モーツァルトの40番など軽やかな早いテンポで演奏するチェリにしては、シンプルな楽器構成なのにゆったりと演奏している。自分自身がハイドンを味わっているようだ。「ロンドン」のメヌエットもお勧め。これは踊るための、と言うよりは聴くためのメヌエットだ。聴衆の和やかな拍手も微笑ましい。土曜の夕方などゆったりしている時に隅々まで聴き、分かったような錯覚をしている。やはりこのほのぼのした音楽を力を抜いて味わうには63歳まで待たねばならないだろう。

 hydon