ユタ・ヒップ・アット・ヒッコリーハウス/BN1515
ユタ・ヒップ・アット・ヒッコリーハウス/BN1515
まずこのジャケットをご覧いただきたい。
お化け屋敷のごとき(?)涼しげなジャケット。
1.イントロダクション・バイ・レナード・フェザー |
7.マッド・アバウト・ザ・ボーイ 9.ジーズ・フーリッシュ・シングス |
サイドメンはエド・シグペンとピーター・インド。ライブの行なわれたヒッコリー・ハウスは今でもおいしいステーキが食べられるお店として現存する。評論家のレナード・フェザーとBNのアルフレッド・ライオンの肝いりで、ドイツからNYに渡ってきたが数枚のアルバムをBNに残し、シーンから姿を消した。アルバムはレナード・フェザーのMCで始まるが、ジャズアルバムのMCはどうしてこんなにかっこよく聴こえるのか。「お城のエヴァンス」、「カフェボヘミアのケニードーハム」、「ファイブスポットのケニー・バレル」などしかり。曲が始まる前からいい音が聴こえてくると確信する。MCに続いて登場の「テイク・ミー・イン・ユア・アームズ」がいい。シグペンの微笑ましいリードの元、ヒップは中音域に音を集めた、結構スリリングなソロを展開する。この曲から伺えるのは、彼女のアイドルがトリスターノとホレス・シルバーだということ。トリスターノを身にまといながら、フレーズは結構シルバー張りに熱いという感じである。
彼女のルーツを感じさせるのは「ディア・オールド・ストックホルム」。この北欧の名曲を淡々と切々と歌う。ピアノの個性を生かす女性らしい演奏に好感を持てる。
一番のお勧めは「浮気はやめて」。本来はキビシイ内容の歌詞らしいが、この演奏はリラックスそのもの。こんな口調で女性に歌ってもらえたら浮気どころでなくなるであろう。
全体として激動のバップを彼女なりに消化した、音の一つ一つに心のこもった名アルバムである。
もし彼女があと数年演奏してくれたら、ビル・エヴァンスに触発され、もっと個性的な世界を垣間見せてくれたに違いない。
ヴァン・ゲルダーがヒッコエリー・ハウスに機材を持ち込んで録音したらしいが1956年当時としては信じられないリアルな音である。
なお、この56年の活動後、帰国したと思われていた彼女は実は、無国籍のままロングアイランドに住み、アルバイトをしながら絵画を書いて個展を開いたりしていたそう。また、クラブに居合わせたアート・ブレイキーと共演したが、ステージ上でいじめられたりもしたそうである。このあたりは1994年7月号の「スイング・ジャーナル」に詳しい。何と当時、元気なおばあちゃまとして発見され、記事になったのだ。
個人的主観による星の数(5つ星で満点、☆は0、5点)。
★★★★